木から学ぶ「適材適所」

西表島へ出張。サキシマスオウノキを見学するための遊歩道の改修設計だ。サキシマスオウノキ( 先島蘇芳木、学名: Heritiera littoralis) は、アオイ科サキシマスオウノキ属の常緑高木。「サキシマ」は先島諸島(宮古列島と八重山列島の総称) を指し、「スオウ」は、染料として利用されるスオウ(蘇芳木、マメ科の落葉小高木)に由来する。別名、サキシマスオウ、サキシマスオウギ、ハマグルミ、スオウギともよばれる。中国名は銀葉樹。
日本では特によく板根を発達させる木として有名で、沖縄古来の小舟サバニの舵板は、この板根を使っていたとも言われる。
空路で石垣空港へ、そして車で石垣港へ移動し、連絡船で西表島へ、さらにチャーター船に乗り換え仲間川を遡ると、ようやく目当てのサキシマスオウノキと対面できる。見ての通り、高く成長した板根を従えた高木は、神々しささえ感じる存在感だ。この神々しい木が群生しているエリアがあり、国の天然記念物に指定されている。写真の手前に写るのが、今回の改修対象の遊歩道だが、当時、かけた金額の割に、早く朽ちてしまったそうだ。調査をするとマングローブ林の軟弱地盤に設置するため、特殊な工法で基礎が造られているのだが、メーカーは汽水域の設計を知らないようだ。肝心な足元の金物は錆び、朽ち果てていた。そして歩道を構成する木材も未乾燥の大断面材を使用しているため、見事にシロアリの餌食となっていた。この状態まで腐朽が進行すると、補修の域を超え、作り直しが必要と判断せざるを得ない。
僕が本格的に木材や、橋に携わるようになったのは、オーストラリアにハードウッドを買い付けに行ったことがきっかけだった。ハードウッドでつくられた鉄道橋や人道橋を見学し、彼ら(OZ)からたくさんのことを学んだ。外観は一様に白銀化した鉄道橋だが、支柱、桁、床板、手すりなど、その用途に応じて異なる特性を持った樹種が選択されていた。例えば圧縮に強い(つぶされない)、曲げに強い(しなりがある)、摩擦に強い(すり減りにくい)、けば立たない(棘がでにくい)など、それぞれの用途に適合した樹種を組み合わせて1つの、大きな橋ができあがるのだ。日本でも杉、ヒノキといった針葉樹を中心としながらも、ナラやケヤキなどの広葉樹を取り入れた立派な歴史的建造物がたくさんあったのだが、当時は意識することなく、オーストラリアで出会った木橋に心を奪われ、この道に進むことになった。そんな経緯もあり、日本国内で様々な木橋やボードウォークの改修を手掛けるようになり、今回の仕事もそんな流れから依頼されたものだ。
国内には様々なメーカーがあるが、本来長持ちさせるべき公共構造物を、自社の都合や、無知により、結果、産廃物を増やすような設計を散見する。それはまるでサキシマスオウノキに見下される人間の愚かな行為のようにも映る。好きな四字熟語に「適材適所」というのがある。辞書には「その人の能力・性質によくあてはまる地位や任務を与えること」と人に適用する場合が多いようだが、この熟語は、木材の利用から生まれた日本人の知恵のような気がしてならないのだ。