ピールド工法の開発経緯と最前線

On 29. 11. 2023 by sai1525

最近になってにわかに評価されはじめた「ピールド工法」。
既設のデッキ材を劣化状況を診断し、再生可能と判断した材の表面を三次元ルーターで削り再生利用する工法として開発しました。

この工法の開発は、2012年、もう11年も前の話です。 都心のビルの管理会社からウッドデッキの改修をしてもらいたいという1本の電話を受けました。お話を伺うと、天然木材のデッキが痛み、表面が滑るようになり、転倒して怪我をされた方がいるので、再生木材のデッキに改修してほしいという依頼でした。

現地で調査を行うと、歩行者の通行によるデッキ材表面の摩耗と、下地構造の腐朽が認められました。そこは都心の駅近物件で毎日何万人という人が歩行し、休日にはイベントも行われるというウッドデッキとしてはかなりヘビーな使用状況でした。そこで「再生木材で改修したい」という施主様のご意向に危険を感じました。この使用状況のまま再生木材に更新したら、もっと大きな危険を呼ぶことになってしまうというアラートが鳴ったのです。

現地のデッキ材は表面は摩擦によりツルツルになっていますが、質の高い硬質木材が採用されていたため、強度や割れなどの問題はありませんでした。そこで私の口から出た一言は「このデッキ材を再利用しましょう」。
先方は「再生木材メーカーの社長なのに面白いことを言うね」と興味を引いてくれたのです。再生木材の強度や摩耗性能は現場のものよりも圧倒的に低いため、同じ条件下で使用した場合、より大きな不具合を発生させる可能性が高いと判断し、その根拠を説明させていただきました。
私の頭の中は「プレーナーで表面を0.5mm程度削れば良い」という安易なものでしたが、何よりまだまだ使える健全なデッキ材を廃棄したくないという木材愛のような感情の方が大きかったように記憶しています。

そして既設デッキ材の再利用をする提案をさせていただくことになったのですが、木材加工場の集積する新木場にある工場をしらみつぶしに回ったのですが、答えは「No」。どの工場も自社で販売する木材を加工するならともかく、持ち込まれた古材の加工などあり得ないというのです。考えてみれば、現場でいくらキレイにビスを外し持ち込むとしても、細かい砂塵を取り除くことはできません。それが原因となり高価なプレーナーの歯を痛めたくないという当たり前の反応です。「現場のデッキ材を再利用しましょう!」と提案した手前、どうにか再生する手段を編み出さなければならなくなったのです。

頼ったのはヨットの仲間である静岡のM氏。静岡は家康の駿府城で栄えたことから木工が盛んで、以前から木材加工機についてM氏に相談をしていた経緯がありました。その日の電話の内容は今でも覚えていますが、新たに導入した三次元のNC加工機があり、それに鋸刃を装着すれば表面加工ができるのではないかというもの。

デッキ材を置いている作業盤の下には強力な吸気装置が取り付けられており、作業盤にデッキ材を固定できるようになっています。しかし、コンパネ程度のものであればビッチリと吸着し、しっかり平行な面を加工できるのですが、ハードウッドの反りを強制できるほどの力はありません。

開発初期の時期は、ルーターの軸に丸ノコの歯を直接取り付けて加工を行いましたが、現在は工場内の安全作業を考え、作業スピードは落ちるのですが、専用のビットに変更し加工を行っています。

サンプル加工をしたところ、前述の通り材の反りがあり、凸部分は深く、凹の部分は浅く削れます。これがいかにも古材の雰囲気を醸し出してくれるので、この設定で行こう!ということになりました。

次にデザインです。PCで曲率や幅などを自由に設定することができるので、加工したRの線が、隣り合うデッキと連続して「波模様」になるようにデザインしました。また、足で踏むデッキなので、極力、水が溜まらないようにデッキ材の幅に対し5%の勾配を設けた仕様にしています。

表面を0.5mm削るだけで、デッキ材はまるで新品のように見えます。
良い材料を選ぶと、このように表面を削るだけで新設時のように蘇るのです。
天然木材は紫外線により表面劣化(日焼け)をしますが、一皮剥けば新品同様にすることができるのです。

デッキ材に目を凝らすと、波型のデザインが見えてきます。これは視覚に訴えるだけでなく、滑り抵抗値を大幅に向上させることができるのです。
2011年当時はSDG’sという言葉はありませんでしたが、「資源であり続けるモノづくり」という弊社の経営理念を体現化する工法となり、この施設の発注者であるNTT都市開発様と連盟でグッドデザイン賞を受賞することになりました。

この工法に将来性を感じたので、会社のショールームを改装し、ピールド工法をアピールすることにしました。古材は当時受注していた横須賀市のヴェルニー公園や観音崎のボードウォークの改修工事で施主様からスクラップ控除材として買い受けたものです。

ショールームのデッキの手前側、壁面の下側には現場から持ち帰ったままの状態で材を設置し、ピールド加工材と並べることで、どれだけリニューアルができるのをアピールしています。
この時の企画で、壁面には水が溜まることはないので、凹凸の大きなデザインを取り入れ、表現の幅を膨らませました。

ショールームにはたくさんの人々が訪れてくれました。当時からのムーブメントとなりますが、今でも木塀や木柵がはやっています。古いブロック塀が崩れるなど、安全性の問題や、天然素材を使いたいというニーズが高まりました。
このような背景を受け、取引先の株式会社メイクさんが、この表面加工を気に入っていただき、自社の製品としてくださいました。

そして本社を沖縄へ移転したsaiブランドも、隣地境界にオリジナルデザインの木柵を設置しました。格子材をひし形に加工するとこで、横を歩くと視野角が変わる仕組みです。

この木柵は風速60m/sを想定したもので、基礎にはすべて螺杭(スクリュー杭基礎)を使用しています。
一部の木材の表面にはピールドを取り入れていますが、光の当たり方により表情が変わって面白いと来場者に好評をいただいています。

そして最後になりますが、ピールド加工の最前線をご紹介します。
この動画をご覧いただければ一目瞭然なのですが、デッキ材を見る角度によって、デッキ材に刻まれた模様が見えたり隠れたりする仕掛けです。

開発当初は、老朽化したボードウォークの改修するための工法のひとつでしたが、ショールームにピールド工法の紹介スペースを設けてから、新材にも採用したいというニーズも増えてきました。
現在も有名なボードウォークでの採用が決まりつつあり、皆様のお目にかかる機会も増えてくると思いますので、現場を見て「お!」と思われたら、このような開発経緯があったことを思い出していただければ幸いです。

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