いなげの浜 海へ延びるウッドデッキ(完成)
一昨年の「すみだリバーウォーク」(東京都台東区-墨田区)に続き、昨年は「いなげの浜 海へ延びるウッドデッキ」(千葉県千葉市)を設計・施工させていただきました。海辺、水辺を得意とする弊社の関東圏における土木分野の事例です。
この「いなげの浜 海へ延びるウッドデッキ」 の最大の特徴は、ブラジル産の〝イペ材”の特徴を活かし、ふんだんに使用したことだと思います。幸い早くからご相談を頂いていたため、ウッドショックに至る前に材料を確保することができ、設計当初の予算内に納まり救われました。
床板には120mm×30mm、転落防止柵の笠木には150mm×40mmを使用しています。1990年代初頭より、様々なハードウッドが日本に輸入され、各地で使われてきましたが、私はこの〝イペ”が日本の気候、自然条件に最も適したハードウッドではないかと考えています。今回の計画は、杭による桟橋構造の上の歩行者用のウッドデッキと、砂浜部の車両(T2荷重)も通るウッドデッキに大別できます。桟橋上の歩行者用のウッドデッキは、公園の園路と同様の構造で、技術的に大きな課題はないのですが、砂浜部の車両も通るウッドデッキは、車両による荷重と、砂に埋まるという設置条件から特殊な仕様としました。
上の写真は砂浜部の端部を撮影したもので、構造が分かると思います。□70mm×70mmのマリンランバーを根太として採用していますが、高さ70mmのうち、50mmをコンクリート基礎に埋めています。すなわちコンクリート天端とデッキ裏とのクリアランスが20mmあるのですが、イペのデッキ材の曲げ応力率が50%以下となるように計算し、根太の配列ピッチとたわみ量を設定しました。ただし、このクリアランス(空間)には、早晩、砂が堆積するでしょうから、デッキ材はほとんどたわまないものと思われます。
この文章を読み、それではデッキ材の裏面が腐るのではないかと感じた方は「プロ」です。下の写真は以前、弊社で調査、改修した某現場で、根太にイエローハート材(グリーン材)、床板にイペ材を使用していたものです。砂に埋まった根太は木口から腐朽していますが、床板は20年以上経過しても、その強度は維持されていました。
今回、車両が載るという荷重条件を与えられた時、この事例が頭に浮かびました。「これを応用し、根太に腐朽する要素のないマリンランバーを採用すれば、強度面、景観面の両立ができる」と考え、実施しました。
これに対し、桟橋部は車両の通る中央部は、コンクリート舗装となり、ボードウォークは両脇で、歩行者しか通行しないため、ここでは公園等の一般的に使用するハット型鋼を使用し、コストメリットを出すこととしました。一般的と言えど、saiブランドのハット型鋼はZAM-K27(高耐食溶融めっき鋼板)を使用しており、沿岸部で使用する溶融亜鉛めっきHDZ-55よりも、はるかに高い防錆性能を持っているので、このような環境で使用しても安心いただけます。
最後に転落防止柵ですが、桟橋の外側はSP種、内側はP種の強度区分とし、それぞれ異なったデザインとしました。
見どころはギリギリまで絞り込んだSP種の支柱です。 H型鋼(H-150×150)をレーザー加工機で斜めにカットした通称〝カットT”とし、外側に6度傾斜させることで、有効幅員を広めるとともに、支柱の底面積を増加させ、強度を担保しています。
ワイヤー柵としたのは、台風時の越波を想定したもので、波浪だけでれば良いのですが、海を浮遊している物体が波とともに襲いかかり、転落防止柵を破壊するという事例をたくさん見てきているので、ここでは、そのような場合でも被害を最小限に留めることができるよう、ステンレスのワイヤー柵を提案させていただきました。
笠木もイペ材です。外周のSP種には150mm×40mmという贅沢な断面が奢られています。これは強度面に加え、笠木の裏側にライン照明を設置できるよう、ある程度大きな断面が必要だったからです。塗装は亜鉛めっき後に、フッ素系の塗料を焼き付けて塗装し、防錆能力を高めています。
ということで、普通のウッドデッキに見えますが、普通の仕様ではなく、まぎれもない沿岸仕様のウッドデッキなのです。とはいえ、利用される方にはそんな特別感を感じていただく必要はなく、単に「気持ち良いのデッキ」としてご利用いただけるのが一番で、施主の方には「気が付いたら全くメンテをしていない」などと感じていただけるのがこの仕様の一番の価値だと思います。
施設がオープンしたら、みなさんがどのようにご利用いただいているのかを見に行くのが、設計者としての愉しみです。
永く愛される施設になりますように・・・