世田谷区岡本わきみず緑地②
~生態系に配慮したモノづくり~
前回の記事で、このプロジェクトのプロローグを書きました。
今回はそれを経て、どのような作品が生まれたのかをご紹介します。
全景
まずはこの1枚。
敷地の最下段となる観察デッキへのアプローチデッキからの眺望で、右手に園路デッキ、奥に眺望デッキを望みます。
デッキ材には「リバースウッドCN」。
これはブラジル産のイペ材で、CNは〝カーボンニュートラル”を意味するのすが、最近、イペ材の古材の再生に力を入れており、ここからCNの頭文字を取っています。
スチール構造の見える箇所はすべてリン酸塩被膜処理をしており、おちついた濃いグレー色で統一しています。
そして今回、デザイナーとともに転落防止柵の面材に選択したのが、ステンレスワイヤーメッシュです。
存在感を消し、園内の景色をシースルーで観察することができますし、近づくと金属製にも関わらず、柔らかな肌触り、印象を与えてくれます。
もちろん安全対策も万全で、支柱間の上中下段にφ5mmのワイヤーを通しています。
アプローチデッキ
こちらは園路デッキから観察デッキへのアプローチデッキです。
園路デッキに10%の勾配がついているために、レベル(水平)の観察デッキとつなぐ、このアプローチは3次元の加工が必要となります。
スロープ(園路デッキ)の下側と上側の高さの違いを整え、水平に着地させるという説明が適当でしょうか。
観察デッキ
観察デッキは二段になっており、階段を降りると水面に近づくことができます。
生物や植物などの生態系に触れるためのデッキなので、手すりを敢えて設けていない「潔く、気持ちのいい」デザインです
この観察デッキも、奥に見える園路デッキも、前回の記事でご紹介した地中梁によって、その構造を支えています。
園路デッキ
前述の通り、園路デッキは10%勾配のスロープになっています。
これは歩道を拡張することが目的なため、既設の道路の勾配と合わせる必要があったためです。
勾配が急なため、滑り止めとして、デッキ材に幅6mm、深さ4mmの台形の溝加工を施しています。
ここまで深い溝も珍しいと思います。
園路デッキを登り、眺望デッキへ曲がるコーナー部分に大きなケヤキがあります。
このシンボルツリーを守るために、ここに設置した手すりの基礎も、コンクリートを使わず、「螺杭」を使用しています。
眺望デッキ
敷地の最上段にある「眺望デッキ」。
ご覧の通り、大きく張り出しています。
この蛇篭の裏には古いコンクリート擁壁があるのですが、構造的に耐力が確保できるか不安だったため、この既設の擁壁には負荷をかけず、張り出しデッキは、カウンターウェイトという考え方で、植生への影響のない箇所にコンクリートウェイトを据え、構造的にバランスさせています。
眺望デッキに入ると、ここがあれだけ大きな張り出しにより形成されているとは思えない安心できる空間が広がります。
蛇篭を利用したベンチなど、利用者が木陰で寛ぐことができる配慮も憎いですね。
しばらく経つと、蛇篭に植物たちが生息して足元が涼しいベンチになるのではないでしょうか。
このように、ほとんどコンクリートを使わずに、現地の生態系の保護を目的に、これらの施設を計画しました。
基礎としてご採用いただいた「螺杭」は螺旋状の鋼製杭で、逆回転すれば簡単に抜くこともできるのです。
この施設の改修はまだまだ先の将来ですが、今回の工夫が、未来に住む人々にとって〝当たり前”になっていると良いですね。
最後に
前回の記事の通り、このプロジェクトは同い年のランドスケープデザイナーからの依頼でした。
彼を通じ、発注者である世田谷区役所の公園緑地課の担当者様とも打ち合わせをさせていただきましたが、とても熱心な方々でした。
昨年10月に本社を沖縄に移転したため、在京のスタッフが現場を担当し、残念ながら私は施工に立ち会うことはできませんでしたが、無事に完工できたことを元請業者様、在京スタッフに感謝します。
この豊かな環境が未来永劫に引き継がれていくことを祈願します。
発注者: 世田谷区 みどり33推進担当部 公園緑地課
設計:株式会社ランドスケープデザイン
元請業者:株式会社高橋植木
協力会社:物林株式会社、株式会社サイアス
製品情報など詳しくは弊社メインサイトをご覧ください。