世田谷区岡本わきみず緑地①
~モノがうまれるまで~
設計依頼をいただく中で、「これはやりたい!」と強く感じる案件があります。
それは計画地の環境や技術の難易度、規模など様々な要因があるのですが、
この岡本わきみず緑地は、同い年のランドスケープデザイナーからの相談でした。
彼はこの計画地の環境調査から業務を進めており、
ここにつくるモノに対する大きなこだわりがありました。
この計画地はもともと個人の所有する土地で、
こんこんと湧く清水を貯め、自室から水盤を眺めるという何とも贅沢な空間だったようです。
世田谷区がこの土地を「わきみず緑地」として整備することにり、この豊かな環境が区民の方々に供されることになったのです。
彼の事務所に行くと、この模型が用意されていました。
リクエストは「生体に配慮するため、なるべく土地をいじらなくて済むようにsaiブランドの「螺杭」を使って歩道と観察デッキをつくりたい」
「また、坂の上にも空間があるので、そこから水面を眺める展望デッキもつくりたい」
といったものでした。
いざ、打ち合わせをはじめると、CADなどなかった時代のように、
お互い手書きでアイディアを出し合い、図面に色鉛筆で色を塗り、構想をまとめていきました。
「環境を継承する」「生体を守る」という大義名分はもちろんのこと、
「気持ちがいい」という、ごく単純な感情が湧く空間をつくりたい。
そんな打ち合わせから、冒頭の「これはやりたい!」というモノづくりがスタートしました。
軟弱地盤
そんなことを踏まえた基本設計が進み、いざ、地盤を調査しようということとなり、一昨年の倒れそうなほど暑い日にスウェーデン式サウンディング試験と、杭の引抜試験を行いましたが、結果はN値が0.8~3程度の軟弱地盤でした。
そして肝心の杭の引抜試験結果は場所により、悪い箇所で12.2kN、良い箇所で35.1kNと、箇所で大きな差があり、とても全箇所、同じ構造で計画を進めることができない値となってしましました。
試験結果により「それまでの基本設計のままでは無理」ということとなったのですが、このデザインは踏襲したいという方向性を定め、
「ではどうするのか」を考え続けました。
「そうだ地中梁にしよう!」
デザインをそのまま継続するのであれば、構造を考えるしかありません。
ひとり(単独の基礎)で持たないのであれば、みんなで助け合おう。
これが地中梁の考え方です。
閃いた瞬間から、地中梁を布基礎として考え、布基礎を螺杭(鋼管杭)で支える方向で構造計算を進めました。
「十分行ける!」計算結果は嬉しい方向性を示してくれました。
計算結果は良い結果を導いてくれましたが、現場で杭を所定の位置にまっすぐ打つことはなかなか難しいものです。
いくら軟弱地盤といえども、このような想定される難題に備えるために、地中梁にルーズホールを設けるなど、創意工夫を加え、準備をしました。
「これはやりたい!」という思いだけではできないこともたくさんあります。
ランドスケープデザイナーの彼の思いを実現するため、この環境を未来に残すため、そして、なぜ、この依頼は当社に来ているのかを思えば、「どう実現するのか」 を懸命に考え、技術的な答え出すことができれば「やりたい!」から「できる!」に変えることができるのです。
そんな思いで、このプロジェクトの設計を行いました。
思いのほか文章が長くなってしまったので、完成写真は次の記事でご紹介することにします。
デザイン:株式会社ランドスケープデザイン