海の仕事をしたことのある人なら、ワッチという言葉は身近に聞こえるかも知れない。さらにヨンパー・ワッチと聞いてピンと反応できる人は船に勤務したことがあるのかも知れない。ワッチとは航海当直を意味し、24時間、船の航行を交代で見張りする仕組みを指し、通常3チームの航海士が輪番で当たる。たいてい午前と午後に分け、さらにそれを3等分すれば、4時間毎の交代である。ゼロヨンは深夜と昼間、パーゼロは活動の多い時間に当たり、ヨンパーは朝と夕方となる。以前、観測船に乗る機会があり、どのチームが良いかと船員に聞いたら、殿様と泥棒があるが敢えていずれも選ばないと答えてくれた。禅問答である。よくよく聞いてみると、深夜にゴソゴソと人目に付かない時間帯である0時から4時のゼロヨン・ワッチを泥棒ワッチと呼び、乗船している皆が起きていて活動時間帯にあたる8時から12時の体力的にも楽なパーゼロ・ワッチを殿様ワッチというらしい。いずれも航海士のランクによってワッチにあたる。その船員がそのいずれも選ばない、すなわち4時から8時のヨンパー・ワッチは、全ての季節で日の出と日の入りの時間帯に当たり明るい時間と暗い時間の境目を経験できる。そしてそれは二等航海士の特権なのだと教えてくれた。さらに付け加えて、変化の無い船上生活だからこそ、日々の変化は楽しみなのだと教えてくれた。
それ以来、私にとって朝に夕にこの時間帯が愛おしく思えてならない。一般の人は通学や通勤の時間帯にあたり、多くの人はこの時間帯に朝食と夕食を摂る。釣りに出かける人なら、「まずめ」といって薄明るい時間帯は獲物の狙いどきでもある。しかし多くの場合、現代社会は活動エリアは照らされ、都市部は深夜でさえ明るい。そう、この素晴らしい変化を楽しむには屋外に居る必要がある。いや、正確には屋外を感じられることが大事なのかも知れない。4時から8時には身近なベランダや庭で、まず、人間を「オフグリッド」してみると、少し地球を感じることができるかも知れない。