旅行や出張で不在がちな我が家。それに転勤を繰り返してきたこともあって、動植物を飼ったり育てたりすることを避けてきた。友人のブログで犬が出てきたり、水槽が出てきたりすると衝動に駆られるが、ましてやマンション住まいだと一時の迷いと諦めていた。そんな話を一軒家に住む友人としていたら、枯れてもいいから試しにやってみろとトマトの苗をもらった。友人曰く、バケツのような鉢に土を入れて、苗を一つだけ入れると夏にはトマトが出来ると言う。そう、出来ると言っただけで収穫が期待されるとは言わなかった。しかも、萎れたら水をたっぷりやるだけと、いとも簡単に言うではないか。「枯れてもいい、できればいい」というハードルの低さもあって、苗を片手にホームセンターで安い植木鉢と土を購入した。その金額だけでもスーパーで立派なトマトが買えるじゃ無いかとヨコシマな気持ちもあったが、「試し」なので植えてみることにした。
程なく苗は成長し支柱が必要となる。こんなに伸びるなんて聞いてないよ、と思いつつも成長が気になってしょうがない。萎れるなんてもってのほか、せっせと水をやって育てた。ところが、用あって10日間ほど家を空けなくてはならない。せっかく伸びた苗を前に、もはや「枯れてもいい」と言う気持ちはなかった。「なんとかせねば」である。最初に思いついたのが、一緒に連れていくこと。しかし植木鉢を持って移動なんてありえない。近所に水やりを頼むことも一案だったが、元来、都会暮らしで付き合いが無い。自動散水装置を敷設するかとも過ぎったが、ベランダに水道が無い。この愛おしいトマトの苗が萎れ、枯れていくのかと思うと、家を空けてはならないとさえ思った。ピンチである。悶々とググっていると、あるものを見つけた。太陽光でポンプを作動させ、汲水散水できる簡易な散水ポンプだった。悩んでいる時間は無い、即購入、即設置と相成った。朝夕のポンプの作動、せめてこれで生き長らえてくれたらと願い出掛けた。5月に植えた苗はやがて立派なトマトを次々と実らせ、ひと夏を十分すぎるほど楽しませてくれた。来年は水道水ではなく、雨水が溜まる仕組みにチャレンジしてみたい。多少の不便とその過程を敢えて楽しむ、我が家のちょっとしたオフグリッドが始まった。