パスの整備

社屋からビーチへ抜ける里道にあった古く壊れたブロック塀。
これを使ってハルサー(農家)さんや歩行者が木陰で休憩できるベンチをつくり、ブロック塀にイラストを描き明るい雰囲気をつくろうと計画した。近所の人にこの塀(土地)の所有者の連絡先を聞き、何度か連絡をしたが電話にでることはなかった。そこでこの計画をご近所に相談すると「ここは昔、豚小屋でかなり前から誰も来ていないから好きにするといいさ~」と何人からかお言葉をいただいた。

里道の距離は約38m。ここに10mほどのロングベンチをつくった。
すると隣地の畑で作業をする農家さんが昼に休憩で使ってくれたりと、海辺で木陰が少ないエリアのちょっとしたオアシスとなった。快適なパス(小径)の完成だ。
しかし、 ブロック塀の向こう側には、 放置された期間を表すように野生の樹木が大きく成長し、その中には おびただしい量のゴミが捨てられていた。ブロック塀は それらを隠すように立っていたが、自身も老朽化が進み、一部が崩落し清潔感とは程遠いたたずまいを呈していた。

日陰のロングベンチをもっと気持ちよく使ってもらいたいと思い、絵本作家の友人にイラストを描いてもらうことにした。テーマは「空と海」だそうで、白く塗ったブロック塀をキャンバスに明るい絵を描いてくれた。
完成すると、道が明るくなったと評判は良く、このようなちょっとした工夫で風景を変えることができたことに満足をしていた。
緑に囲まれた明るい小径(パス)を歩くのは気持ちがいい。

整備が終わり、この風景が馴染んだある日、建設業者らしき人が訪れ、あのブロック塀とベンチを壊していいかと聞きにきた。
里道の所有者である糸満市からこの里道の管理をボランティアで行う許可を受けていたので、弊社は社会貢献としてベンチを設置し、イラストを描いたと説明すると、土地の所有者からブロック塀の解体と敷地内の樹木の伐採、雑草の除去を委託されたのだと業者は言う。ここで押し問答をしても仕方がないので、数日間をいただき、せっかくつくったベンチを撤去した。数日後、描いてもらったイラストごとブロック塀は解体され、成長していた樹木は伐採され、豚小屋があったと思われる場所に古い土間コンクリートが残る殺風景な土地になってしまった。
それから1年半が経過したが、元豚小屋の土地は相変わらず放置され、雑草が密生している。

弊社の社屋は里道に挟まれている。前述の里道は社屋から西側(ビーチ)へ抜ける道。反対側は東側にある車道からの進入路だ。この進入路も里道なのだが、こんなことがあったので、整備をするのに気が引けていた。

しかし台風や大雨が降ったあと、畑から水が進入してきて通路(里道)は水浸しになってしまう。また、社屋前面(南側)の畑を借りることができたことと、里道に接する東側の畑も同じ所有者だったこともあり、里道と畑の境界に石を置き、里道を嵩上げしたいと提案すると快く同意してくれた。

同意が得られたので、畑と里道の境界に防草シートを敷き、その上に琉球石灰岩を野面で配置し、里道を嵩上げするための土留めをつくった。

しばらく期間をあけ、縁石が畑の土に馴染み安定した頃、里道に小石で土盛りを行い転圧をかけた後、地元の砂を舗装材にして仕上げた。

しばらくすると、砂も安定し、野生の芝が根付いてくれるはずだ。近所の人は「どうせお金をかけるなら、コンクリートを敷いたらいいさ~」という。「コンクリート舗装にしてしまったら、東京と同じじゃない。こうやって自然舗装をすれば雨水も浸透するし、路面も熱くならないからね」と返す。

便利なものと環境に良いものは得てして違う。
サザンオールスターズのRelay~杜という曲の歌詞がいい。

♪麗しいオアシスが、アスファルトジャングルに変わっちゃうの?
♪未来の都市が空を覆っちゃっていいの?
♪わかりやすい言葉でどなたか教えてくれませんか?

東京でイヤだと感じたこと。
それを豊かな環境を残すこの場所で繰り返したくない。
ここを訪れる人たちに、少しでもそんなこと感じてもらえればいい。

投稿者: YUKI

株式会社saiブランド代表取締役。 30年前、オーストラリアで木橋に出会い、自然素材の可能性に魅せられる。 木橋やボードウォークの設計や、木製構造物の診断などを手掛けている。 2020年8月に本社を東京都墨田区から沖縄県糸満市名城に移転し、「オフグリッド」に事業として、ライフスタイルとして取り組んでいる。