東京に暮らしていた頃、朝にアマゾれば夕方には配達され、居ながらして地球の裏側のモノでさえ楽しめた。生鮮品は近所のスーパーが即配してくれたし、OISIXは献立まで考えた食材が半加工して必要な分の調味料と共に届いた。配達料は無料か安価で、もはや近くのコンビニでさえ不便に感じていたのだから皮肉なものだ。
転じてハワイの生活は極めて不便だが不条理では無い。特に食材は、人の手が加わると忽ち人件費が掛かり、姿かたちを変えると加工費が嵩み、さらにテイクアウトでさえチップが18%、スマイル0円などというサービスは見かけない。最近、カリフォルニアから上陸したファストフードのChick-fil-Aのバイトの時給は18ドル、日本円で換算すると2500円程度。週末にドライブスルーの受渡しのシフトに入ると4時間で更に100ドル以上のチップが手に入るという。時給に換算すると軽く5000円を超えてくる。結果、日本から見るハワイは物価が高いと短絡的に感じてしまう。いかに日本の常識が世界の非常識になってしまったのか、あの手の込んだラーメンが1000円で食べれる国はもはや世界の何処にも無くなってしまった。
東京と同じように便利で合理的な生活をするなら、恐らく5倍以上のコストがかかる。所以、そんな調子に乗ったことは出来ない。外食の頻度は激減し、レストランのテイクアウトよりスーパーの惣菜コーナーを利用するようになり、更にファーマーズマーケットに通うようになった。肉は塊りだし、魚は丸ごと、野菜には土が付いている。小分けになっていない分、帰宅したら仕込みをしなくてはならない。そして少しずつ工夫して日を変えて食していく。新鮮なうちは、肉は赤身を残すくらいのレアな焼き具合で、魚は刺身で素材の味を楽しむ。
ハワイには赤い塩と黒い塩がある。火山土壌の赤土や活性炭を混ぜた天日の海塩だ。フィンガーライムという木の実はライムの香りでレモンの酸味がある。ずっと昔にポリネシアからカヌーでやってきた同じルーツを持つハワイとニュージーランドは今でも近いから、魚屋にはいつも地元のマグロとNZの鮭が並んでいる。今日は迷ったけど鮪の半値のキングサーモンを買ってみた。切り身に黒い塩とフィンガーライム、皮はじっくり焼いて香ばしく、そして地元のサトウキビで造ったラムと戴こう。醤油や山葵が無くとも、なんとも贅沢な食事だ。