内水氾濫?水くらい処理したい。

写真の下側にあるコンクリートブロックに囲われたエリアが蒸発散装置

オフグリッドは電気だけではない。ここでは下水からオフグリッドをするために、汚水の蒸発散装置を採用している。というのもきちんと整備された下水道がないため、建築確認の際に確認したところ、汚水は敷地に面している農業用排水路に流してほしいということだった。しかしこの排水路を辿ると、そのままビーチへ排出されており、ここに汚水を流す気になれなかったのだ。そこで計画したのが「蒸発散装置」だ。写真の下側にコンクリートの縁石ブロックに囲われ、あきらかに他よりも芝生の緑が濃い区画が確認できると思う。写真右手に浄化槽の蓋が見えると思うが、ここで浄化したものを、蒸発散装置へ流し、蒸発させている。

システムはシンプルで、5m×2mのFRP製の箱へ浄化槽からの汚水を流し込む。箱の中には2本の塩ビパイプを走らせている。ろ過材を仕込み、孔のあいたパイプを砕石上に乗せ、改良土材、発生土を積層し、芝生を植生している。浄化槽は5人槽で一般家庭の容量だ。年に1度、点検口をあけ、パイプを取り出し洗浄する程度のメンテナンスでよく、4年間使用しているが、よほどの大雨が続かない限りは問題なく機能してくれており、地方での採用事例が増えることを願いたい。

他方、地下を使いたくても共同溝や地下鉄、高速道路の走る都市部では困難だ。近年のゲリラ豪雨は50mm/hという下水処理機能を大きく上回る。倍の100mm/hを越えることもしばしばだ。
さらに地表はアスファルト、インターロッキング、コンクリートで覆われているため、降雨量の大部分が下水へ流入することになる。そう。地方のように浸透させてくれる土壌がないのだ。東京在住時は雨の日でも何も気にすることなく歩いていたが、ここ(沖縄県糸満市名城)では雨が降ると道には雑草がはびこり、靴はぐしょぐしょになってしまい不快だ。それに月に何度も草を刈るのは相当な労働力だ。しかし、どんなに雨が降り続いても浸水することはない。つまり、津波にでも襲われない限り、構造的に内水氾濫などが起こるわけはないのだ。

出典:NEWSポストセブン

温暖化による気候の変動により、「想定外」「これまでに経験したことのない〇〇〇」などという表現が増えた。実際に今夏は平年よりも平均気温が1.7度も上昇し、異常気象と発表された。「災害が頻発する今を”ニューノーマル”として認識し、対策を講じなければならない」などと解説者は言うが、都市の地下をいじるのはそう簡単なことではないだろう。気づこうよ。都市に住むことの危険性に。バリアフリーもいいけれど、このくらいの自然現象に耐えられない都市基盤に住み続けることの危険性を。人類の安全・安心・快適を求めて整備してきた都市整備が、返って人類を苦しめることになるとは、それこそ「想定外」だ。
かくいう当社の東京事務所は海抜ゼロメートル地帯にある。

投稿者: YUKI

株式会社saiブランド代表取締役。 30年前、オーストラリアで木橋に出会い、自然素材の可能性に魅せられる。 木橋やボードウォークの設計や、木製構造物の診断などを手掛けている。 2020年8月に本社を東京都墨田区から沖縄県糸満市名城に移転し、「オフグリッド」に事業として、ライフスタイルとして取り組んでいる。